しばらく前になりますが、巷で話題(?)のキャラバンを見てきました。監督はエリック・ヴァリ。ネパール在住のフランス人監督で、ブラッド・ピットの出ていた「セブン・イヤーズ・イン・チベット」の制作にも参加していた人物です。「セブン・イヤーズ・イン・チベット」といえば、この映画の主人公である長老の長男の妻を演じている女性もどこかで見たことがあるなぁと思っていたら、「セブン・イヤーズ・イン・チベット」に出演していた人と同一人物だそうです。あの映画でも、なかなか印象的な役だったけど、典型的なチベタンのイメージの女の人ですよね。素朴な顔立ちだけど、眼差しが印象的で。
映画のストーリーは、塩の行商をするキャラバンを通して、チベット(正確にいえば、ドルポ地方ということでネパールではあるが、ヒンドゥー色というよりはムスタンなどと同様西チベットに近い文化圏である。ただし、非解放地域でもあり普通の旅行者にとっては行くのはかなり困難な場所のようだ)の過酷な自然の中で生き抜いていく人々のたくましさと、そのよりどころになる宗教、土着の信仰、それらによって結びつけられている共同体の姿を描きました。と、まぁ簡単に書いてしまうとわりとありがちな気がしてしまうが、確かにこの映画は少し違う。同じチベットを舞台にしている「セブン・イヤーズ・イン・チベット」とはずいぶん毛色の異なる映画である。特徴は、伝統を重んじる老人と伝統を打破せんとする若者、最後の大団円といった感じのいかにもアーティフィシャルな構図ではあるが、その表現方法がリアルであるために見るものの心をしっかりとつかみ、そのストーリーや背景のシンプルさゆえに表現方法が際だって見える。
この映画で描かれているチベットの山の姿は、アルパイン的な魅力にあふれた山々ではなく、木々もなく禿げ山のように見える無骨で荒涼とした山肌と、いかにも崩れ落ちそうなくらい無造作に転がっている岩といったまさにチベットの山そのものである。なんでチベットの山の中で「塩」なのかとか、鳥葬や、結婚観(自分の母親と結婚すると行った例もあるようだし)といった予備知識があると、一層この映画のリアリティが楽しめるのは間違いないと思う。ぼくは、数少ないながらも自分の見てきたものを投影させながら見てました。「カイラス」からやってきましたという巡礼者の一言に「うんうん」と思ったり、吹雪の中で足が雪の中にはまるたびに一瞬天を仰ぐ姿を見ては「そうだった、そうだった」と思ったり(僕の場合、あの映画ほどはひどい吹雪ではなかったけど)、そういう意味では僕にとってはこの上なくおいしい映画でした。
正月の休み明けに行ったんだけど、結構盛況でしたね。上映開始30分以上前に行ったのにすでにかなりの人が並んでいて、「ハイ、2階席へどうぞ」というかんじだったし、、。客層としては、この人絶対チベットに行ったことあるよと思わせぶりないかにもバックパッカー的な雰囲気のある人や、民族音楽とかそういうのがちょっと好きそうな人がいるのはもちろんとして、熟年夫婦系の人が結構目立ってたかな。ぼくが、一度試しに行ってみたヒマラヤトレッキングツアー説明会で、あまりの年齢層の高さにびっくりしたというレベルまでは行かないが、この人達もきっと自分たちの体験と重ね合わせてみているんでしょうね。
ま、機会があったら見てみて下さい。ストーリーはなんのたわいもない話ですし、宣伝に書いてある「少年の成長」というのは?が3つくらいついてもよくわからない宣伝文句ですが。映像を見ればきっと感動するでしょう。
(01.01.20)